平成に入って

昭和の終わりぐらいから、ある犯罪が社会現象になっていきます。
それは「ピッキング犯罪」と呼ばれるものです。
ピッキングとはカギを使わずしてカギをあけてしまう技術のことですが、これを悪用した犯罪が急激に増加していくのです。
特に、この当時主流だったディスクシリンダーというカギが簡単にピッキングできてしまうカギだったために、このような被害が増加したということです。
ピッキング被害にあうため、ディスクシリンダーを使用するのは危険だとマスコミで取り上げられるようになりました。危機感を覚えた人が別のカギに交換するようになり、メーカーでもディスクシリンダーの製造が中止されました。
ディスクシリンダーのかわりに登場したのがディンプルキーというカギです。これはピッキングできないカギです。
まだ日本のメーカーでは製造されていないカギでしたが、スイスに本社のあるカバというメーカーが作っていたのでこれが日本に浸透していくことになります。
平たいカギで裏表がないので、どちらがわを向けても鍵穴に挿すことができるのが特徴です。
また、複製も困難なカギです。カギを新しくつくろうとしたらセキュリティコードや所有者のデータを確認する必要があります。
このようにして日本のセキュリティ技術は進化していっているのです。

江戸時代以後

日本が開国すると江戸時代も終わりを告げます。
開国して海外との貿易が始めると、鍵も性能のいいものがたくさん日本に入ってくることになります。この海外の鍵を真似して日本のメーカーも国産で鍵を生産していくことになります。しかし、まだまだ国産の鍵は海外製品の模造品でしかなく、技術も性能も低いものでした。
現在使われているシリンダー錠を国内で一番最初に国産化したのがGOALというメーカーです。現在でもこのメーカーは第一線で鍵を製造しています。自分の使っている鍵がGOALのものだという人も多いのではないでしょうか。その他、GOALは日本で最初の円筒錠の開発に成功したり、電子錠のシステムもいち早く取り入れたりしています。いろいろな「日本で最初の」鍵を生み出しているメーカーなのです。

こうして高性能のカギが国内でたくさん製造されるようになり、一般住宅にもカギが浸透していきます。
カギが玄関についているのが当たり前になってくるのです。
高度経済成長期はこうした日本の一般家庭の水準が高くなった時代です。これまで庶民はカギを必要としない生活を送っていたのですが都市部の家にはカギはなくてはならないものになっていくのです。
また、この時代「鍵っ子」という言葉も生まれました。
女性の社会進出が進んだために、専業主婦が少なくなり、子供が昼間一人で留守番をすることが増えたのです。核家族化が進んだことも背景にあります。

江戸時代の和錠

江戸時代は和錠が発展した時代です。
戦がなくなったので仕事を失った刀鍛冶などの武器職人が鍵職人に転職したのです。
江戸時代まで海老錠から進化がありませんでしたが、ここにきてようやく和錠という新しい文化が誕生したのです。
和錠の仕組みは主に板バネ式です。そして四角い形になっていて左右非対称なのが特徴です。
そして、特徴的な意匠が施されているのが特徴です。
錠前職人たちは武家や裕福な商人たちにリクエストされて豪華だったり個性的なデザインを施していたのです。
そして優れたものを作った職人には藩から褒美を与えられていました。このことも職人たちが競って和錠を作った理由になっています。
代表的な和錠は4つあります。
ひとつは阿波藩の阿波錠です。阿波藩は産業で栄えていた豊かな藩なので阿波錠はとても豪華な装飾がされていました。
土佐藩は刃物の産地だったため、刀に使われる玉鋼を使って錠が作られました。
頑丈で精巧な作りが特徴です。
因幡は鳥取砂丘でも有名な砂鉄の産地です。砂鉄を使った軽くて薄い錠前が作られました。
安芸錠は鍵穴の部分が裏表共に膨らんでいてヒキガエルのお腹のようです。そのため、安芸弁でひきがえるを表す「ドンビキ錠」という名前がつけられています。

江戸時代のカギ

奈良時代に発掘された海老錠ですが、それ以降の時代ではカギの進化はほとんど見られません。
海老錠は実に江戸時代まで使われ続けていたそうです。
江戸時代に入るとようやく新しい形のカギが見られるようになります。
ただし、江戸時代になってもわたしたちのような庶民が日常的にカギを使用することはほとんどなかったそうです。
江戸時代というのは戦もなく、鎖国中でもあり、とても平和な時代でした。街も現在にくらべてはるかに治安がよく、夜中や外出中に戸締まりするといっても心張り棒を使うくらいで十分だったそうです。
心張り棒を使うこと自体、庶民派ほとんどなかったそうです。庶民にとっての防犯は近所の人たちに声をかけるくらいで十分でした。
庶民たちは長屋に住んでいて、隣近所の人たちと家族同然の付き合いをしていました。もし不審者が家に侵入したりしたらすぐに近所の人が気づいて通報し、お縄に掛けられてしまうのです。

江戸時代のようなカギをかけないという習慣は現代にまで続いていました。
田舎だったりすると今でもカギをこまめに施錠しないという家庭があるかもしれません。
密なコミュニティが築かれていると犯罪が発生しにくいのです。周囲の目も厳しく光っています。

江戸時代に話を戻しますが、この時代、カギをかけていたのは裕福な商人や武士の家に限られていたようです。